丸沼芸術の森

〒351-0001 埼玉県朝霞市上内間木493-1
TEL/FAX:048-456-2533
アクセス
トップ ご案内 芸術の森コレクション イベント 芸術家紹介 ワイエスレポート グッズ販売 ご意見・ご感想 リンク
イベント
今後のイベント
過去のイベント
イベントレポート

イベントレポート

区切り線

丸沼芸術の森 美術鑑賞会 2009年6月20日開催

テーマ=絵画の闇―制作のプロセスをふまえて
講師=鈴木 伸(画家)
展示作品=
ギュスターブ・モロー《ダビデ》 エッチング 61×8×37.5cm
ベン・シャーン《盲目の植物学者》リトグラフ 1963年 67.5×51.5cm
長谷川潔《窓辺卓子》メゾチント 33.9×27.2cm
    《樹と村の小寺院》ドライポイント 33.2×23.9cm
    《古いアカシア》ドライポイント 34.2×23.35cm
    《水浴の少女と魚》ドライポイント 21.2×14.4cm
    《シャトーアルヌーの寺院》メゾチント 16.5×29.2cm
鈴木 伸《夜》テンペラ油彩混合技法、板(白亜地) 1990年 45.5×38cm
    《鹿野苑》テンペラ油彩混合技法、板(白亜地) 2004年 変8号
    《獅子宮》テンペラ油彩混合技法、板(白亜地) 2006年 F5号
    《夜のくしげ》テンペラ油彩混合技法、板(白亜地)2009年 60×20cm
鑑賞会風景

顔料や技法、地塗りの過程などが、スライドを用いて詳細に紹介された。

自身の描く絵画世界は俗に「幻想」「神秘」などと言われるものと通じ、その世界を「絵画の闇」と今回の講演テーマ名では呼んでいるが、参考に類似した世界観を持つ作家の作品を展示。自身が創作の際に利用する「混合技法」についても紹介したい。

私は幼い頃から父の影響で古美術や、京都・奈良の寺社仏閣に親しんできた。寺社の参道の砂利道を進み、伽藍の中の仏像に出会う、独特な雰囲気は今でも私にとって原体験として残っている。その後、美術大学で日本画を専攻したが、卒業後も自身が表現したいものを探し求めた。その中で数ヶ月間、ヨーロッパを遊学した際、ウィーンの美術史美術館を訪れた。この美術館のコレクションにはブリューゲルやヒエロニムス・ボスなど北方ルネサンスの作品が多く含まれ、自身の作品世界に多いに影響を与えた。それらの作品が描かれた技術は「古典技法」と言われ、現在はほとんど廃れてしまったものだが、私の「混合技法」はそこにルーツを持つものである。

さて、当時の絵画や文学は、当然、電気の灯りではなく、蝋燭やランプの薄暗い光の下で創作された訳だが、例えばジョルジュ・ド・ラ・トゥールの絵画を思い起こしてみると、蝋燭の光で照らされた人物の明るい面の反対側には広く闇が広がっている。当時の人々にとって「光」と「影」や「闇」は、現在の私達にとっては意識しない、「神」や「道徳」と深く関わるものであり、世界観に深く関わると考える。そして、絵画の中で重要なのは「光」だけでは無く、ひょっとするとそれ以上に「影」や「闇」は重要なものと言えるのではないか。なぜならば特に北方ルネサンスの世界(フランドル地方など)は地理的にも気候的にもイタリアと比較すると光の量が少ない。その作品世界も「影」と「闇」の性格が強い。そして電気がなかった当時、闇の中に灯る蝋燭などの下で生み出される音楽や文学、絵画の世界にはやはり、「闇」の影響があるだろう。例えばゲーテの「ファウスト」や「魔王」のように。

私の「混合技法」は板を支持体に卵テンペラと油彩の層を重ねて描く、まさしくテンペラと油彩の「混合」した技法である。このような古典技法はウィーンを中心に現在も伝承されているが、私は独学に近い形でそれを習得した。白亜(炭酸カルシウムを主成分とした石灰岩の一種)が敷いてある板に、まず油彩で地塗りする。その後、一般的には下描きする場合が多いと思うが、私はさらにテンペラで地塗りを行う。その際、均一にテンペラを塗るのでは無く、有機的な形態が画面に残るように筆や指で顔料を塗り付ける。支持体や顔料に意識を集中させながらも、意識した筆(指)跡ではなく、無意識の形態が残るように。これで下地(インプリミトゥーラ imprimatula:有機的な、動的な下地)ができあがる。そして、下地を塗った画面の向きを変えながらインスパイアされるものを探し続ける(まるでロールシャッハ試験のように)。地塗りの凹凸を剃刀でフラットに削ったり、色彩の強弱を、さらにもう一色薄塗りするなどの準備をさらに経て、テンペラでモチーフを描き始める。下描きはせずに、直接、本描きを行うが、画面全体の構想を先に行うのでは無く、その時その時に心に浮かぶイメージやビジョンを画面に描き加えて行く。この時重要なのは、インプリミトゥーラを塗り消してしまうのでは無く、薄い塗り重ねで、下の層が透け見えるように(グレーズ)している点である。描き進めるに従って画面全体のイメージが固まり、チタニウムホワイト(白テンペラ)で具体的なイメージを下地から探し出し描きはじめる。白テンペラによってデッサンされた上に油彩の透明色をのせていく。幾度もこの行程をくりかえして、モチーフを詳細に描きこみ完成に至る。スライドで紹介している制作過程は、私が続けている10センチ角程の、小品の連作の一つである。一般的には下地は上塗りの発色を良く、また、上塗りが安定する為に行われ、下塗りそのものの痕跡は残されないが、私は下地を生かして即興的な、偶然性のある作品を心がけている。言い換えれば、下地に現れたイメージを、描き進める事によって育てながら、自身の無意識の表象を描いている。近代では油彩やアクリル絵具などの利便性が高まり、このような手法で描かれる絵画は非常に少なくなったが、先述の北方ルネサンスなどの古典技法で描かれた作品を見ると、インプリミトゥーラの痕跡を必ず見出す事ができる。画家は呼び起こされたイメージを白テンペラで描き出す。この動機にうながされている段階がもっとも重要なのである。画面を見つづけることで語り合う行為によって、肥沃ながらも混沌とした下地画面と、自分が響き合う。白テンペラの光のフォルムで物語は始まっていくのである。

私の使っている技法を、今日の絵画にそのまま当てはめる事は難しいと思うが、画面や絵具と対話しながら、さらには画家が自分自身のイメージを育てる事の大切さは是非意識していただきたい。

トップご案内 丸沼芸術の森コレクション | イベント | 芸術家紹介ワイエスレポートグッズ販売ご意見・ご感想リンク
このwebサイトのすべての内容について、一切の転載・改変を禁じます。このサイト内にある画像の著作権・肖像権などすべての権利は、 それぞれの権利所有者に帰属します。本サイトに関するお問合せは、丸沼芸術の森まで