丸沼芸術の森

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丸沼芸術の森 美術鑑賞会 2010年5月29日開催

テーマ=「近現代の具象彫刻」
講師=儀保克幸(彫刻家)

展示作品=
エドガー・ドガ 踊り子 紙、木炭 47.9×39.1cm
アリスティド・マイヨール うしろ姿の裸婦 パステル、紙 18.9×37.8cm
ジャコモ・マンズー レリーフ習作 ブロンズ 72×54×2.5cm
ヘンリー・ムーア Seven Sculptural Ideas 1980-81年 リトグラフ 43×35.5cm
ヘンリー・ムーア Reclining Figure:Holes 1982年 ブロンズ 4.9×12.7×3.7cm
佐藤忠良 しゃがんでる女の後姿 1955年 鉛筆・コンテ、紙 35.1×24.8cm
佐藤忠良 土 1956年 ブロンズ 20×23×20cm
儀保克幸 MANEI 2007年 石膏 25×20×20cm
儀保克幸 無題 2002年  FRP 90×40×30cm

鑑賞会風景

儀保克幸《ここにいるわたし》
2009年 木・キャンバス・アクリル
130×100×100cm

丸沼コレクションを通じて、近現代の彫刻家達の姿とともに、私自身の作品をご紹介したい。

「近代彫刻の父」とも呼ばれるロダン。それ以前は神話の神々などをモチーフとした、理想の美が表されていた彫刻でしたが、ロダンがサロンに初めて出品したのは、それとは正反対のモデルを使った《鼻の曲がった男》(1864)で非難を受けました。それから十数年後、ロダンは再び《青銅時代》(1877)を発表します。あまりにリアルな人物表現に「生きた人間から型を取ったのではないか」とも言われました。ロダンはこの2作品の間に、ミケランジェロを研究しますが、ミケランジェロ作品はより理想的な美しい人体であるのに対し、ロダン作品は現実の人間臭さがあると言えます。もう一作づつ比較するとミケランジェロの《サン・ピエトロのピエタ》(1948-1500)は20代前半の頃の作品ですが、その傑出した表現は正に傑作と言えます。ロダンの《地獄の門》(1880-1917)はダンテの「神曲」をモチーフとしたものです。19世紀、産業革命や科学の発達など、それ以前の時代から価値観や宗教観も大きく変化し、神や人間の本性へのロダンの思索が反映されています。

ロダンとブールデル、マイヨールは彫刻における3人の巨人と言われます。ロダンは詩的、ブールデルは男性的でモニュメンタル、マイヨールは女性の美を特徴としています。マイヨールは40歳までは印象派に近い絵画を描いていました。丸沼の所蔵品である《うしろ姿の裸婦》は、マイヨールが彫刻制作に際し、どのようにモデルをデッサンしていたのかを伺える、私達彫刻家にとって、非常に興味深いものです。
ドガは印象派に属する画家ですが、一般的な印象派の画家は外光の下での制作が主であったのに対し、ドガは屋内での制作を中心とし、やはり身近な人々を描いていました。ドガは目が悪く、徐々に視力を失っていった事が理由と言われます。視力の弱まっていくドガは彫刻にも打ち込みます。生前ドガが唯一発表した彫刻は《14歳の小さな踊り子》(1881)です。当時も大きな話題となった作品ですが、実は私が彫刻の道を選ぶきっかけとなった作品です。ワックス(蜜)で肌を表現し、髪には本物の人毛を使い、ある意味、彫刻のタブーを破ったもので、そのあまりに生々しい存在感は当時むしろ「醜悪」と非難されます。ですが、私にとってこの作品はそのような見方を超えて、像の持つ存在感や凛とした姿勢などに感銘を覚えました。丸沼コレクションのデッサン《踊り子》はバレエ練習中の踊り子達の小休止を描いたものですが、二人の踊り子の会話や、その息づかいまで感じられそうな一枚です。ドガはさらに視力が衰える中で、晩年はパステル画も多数描いています。
佐藤忠良も身近な人々の動きなどを多くの作品に残しています。ロダン以降、従来の「美しい」ものだけでなく、日常的なものの描写を通して人間の本性を探れるか、というテーマを彫刻は持ち続けています。《土》とその制作過程に描かれたと思われるデッサン《しゃがんでる女の後姿》は、そのようなテーマに対する佐藤の一つの提示と言えます。その後、1960年代後半以降、佐藤はジーパンや帽子、マントをまとった女性像を制作します。それらは当時、非常に「おしゃれ」な彫刻であったと思います。「通俗的だ」との批判もあったようですが、日本人としての塑像(彫刻)を現代的にどのように表せるのか、を悩み求めていた佐藤の姿を見出せると思います。

マンズーは《枢機卿》という一連の作品で知られますが、佐藤忠良の《ボタン》(1969)、法衣を纏う《枢機卿》とフード付きのマントを身に付けた《ボタン》は、それぞれ三角錐に似た形状で、類似性があります。この頃、佐藤は新しいスタイル、彫刻の形態を求めていました。ロダンの《バルザック》(1898)も加えて比較すると、ストレートでシンプルな形態で、余分なものを取り除いた、彫刻家のシンプルな表現への意思を感じ取れます。マンズーは「布」「衣」の表現に卓越していた事でも知られます。マンズーはバチカンのサンピエトロ大聖堂やザルツブルク大聖堂の門扉のレリーフを制作していますが、丸沼の所蔵品《レリーフ習作》はそういった寺院の門扉の為の修作で、この作品からもその技術力が伺えます。しかしながら、マンズーの行き着く先は《枢機卿》のシンプルな形態にある、と言う事はとても興味深く感じます。
ヘンリー・ムーアは一般に「抽象」と言われますが、横たわる人物や家族像を表現するムーアは、私にはとても具象的に感じられます。そして、私は東京造形大学で、佐藤忠良に学んだのですが、佐藤は「立つ」事に注視し、ムーアは「横たわる」安定感の重要性を表現します。立つ事による「人と神」「立つ事の危うさ」の関係から「人と大地」「大地との一体化」「人間同士の横のつながり」といったムーアの思いが読み取れます。ムーアの《アトム・ピース》(1964-5)は広島市現代美術館に所蔵され、原爆を主題とした作品で、原爆のきのこ雲とドクロをイメージさせるものです。これは、「原爆を賛美しているのではないか」との批判も一部にはありましたが、家族や人間愛を作品としたムーアはむしろ原爆を批判したのでは無いかと私は思います。

このように彫刻家は単に彫刻表現を超えて、神話の神々、社会と人間の存在、身の回りの人々、家族、自然などを扱ってきた流れがあります。
私は昨年11月、画廊沖縄というギャラリーで「ここにいるわたし」という個展を開催しました。この展覧会は薩摩の琉球への侵略400年となる年である事をテーマとした企画でした。私はこれまで沖縄の歴史などを主題にした作品を制作してきませんでしたが、私が生まれ育った沖縄の歩んだ道を考える機会だ、と依頼を引き受けました。彫刻を志した当初は技術を学ぶ事からでしたが、それ以降、常々何をもって「彫刻」は成立するのか、私自身にとって難しい問いでした。これは明治以降の日本の彫刻家も同じです。技法や理論から西洋彫刻をいくら学んでも「本当の彫刻とは何なのか」、多くの先人達も悩んできたものです。この展覧会で発表した《ここにいるわたし》は木彫の少女の像です。私は少女を良くモチーフとしているのですが、その少女とは私にとって無垢な、忘れてはいけないもの、という存在です。この少女の姿は、第二次大戦の沖縄戦を記録したフィルムに記録された一人の少女を描きとったものです。忘れてはいけない歴史から、この少女を立ち上がらせたい、という思いがこの作品には込められています。フィルムの中で、偶然目があった少女が見た風景、感じたもの、そして今に生きる私達の視線を次の世代にどのように伝えるのか、を考えました。フィルムではモンペ姿であったものを、洋服姿にし、過去と現在を浮遊する存在としました。少女が立つ台座は、キャンバスを張った台に赤花(ブーゲンビリア、仏桑華、沖縄では死者に手向ける花)を描きました。この画廊の建つ南部は激戦区で、現在そこに立つという事は、おびただしい死者の上に立っているようなものである事も表わしました。さらに少女の手にはハジチを施しました。(ハジチ=沖縄の風習で既婚女性の手に施される幾何学模様の刺青。その起源は薩摩に侵攻された琉球の姫が、無理に薩摩に連れていかれそうになり、それを防ぐ為にハジチを施す事で「傷もの」となった事で身を守った事と言われる。その後、魔除けやファッションとして琉球の文化となるが、明治以降「野蛮」として禁止される。)これにより薩摩の植民地であった時代、そして明治以降も「野蛮な土人の文化」と見なされた歴史を象徴させました。他にも基地の光に照らされる島をモチーフとした作品も展示しました。私は幼い頃、近所の女の子が赤花を摘んで髪に飾った所、お婆さんが「このままでは死んだ人に捧げる花だよ」と、そのオシベとメシベをむしり取り「これで大丈夫」と再び女の子の髪に飾ったやりとりを傍観した記憶があります。一つの行為を通して死の世界と生の世界を行き来してしまう事をとても面白く感じました。ある意味、彫刻や美術というものは、作者や見る人の意識を転換させるものと言えるのではないかと思います。私はこれからも「彫刻」とは何か、考え続けたいと思います。

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