丸沼芸術の森

〒351-0001 埼玉県朝霞市上内間木493-1
TEL/FAX:048-456-2533
アクセス
トップ ご案内 芸術の森コレクション イベント 芸術家紹介 ワイエスレポート グッズ販売 ご意見・ご感想 リンク
イベント
今後のイベント
過去のイベント
イベントレポート

イベントレポート

区切り線

2011年5月21日開催 美術鑑賞会

テーマ:「彫刻家のデッサン 彫刻とは何か?について考えるために」
講師:渡辺一宏(彫刻家)

展示作品=
アントワーヌ・ブールデル《レダ》インク・着色、紙
エミリオ・グレコ 素描 1962年 インク(ペン)、紙
柳原義達《裸婦》1954年 木炭、紙
舟越保武《修道女》1990年頃 木炭、紙
佐藤忠良《しゃがんでる女の後姿》1955年 鉛筆・コンテ、紙
佐藤忠良《水》1956年 ブロンズ

鑑賞会風景

上)アントワーヌ・ブールデル《レダ》
下)講演する渡辺一宏氏

何人かの彫刻家のデッサンを比較してみると、個々の作家の描き方の特徴などに大きな違いがあり、「彫刻家のデッサン」と一言で語るのは難しい。今回は画家と彫刻家、あるいは絵画と彫刻との比較で考えてみたい。

まず今回の展示作品を見てみたい。ブールデルはロダンの弟子の一人。ロダンはそれ以前と以後で彫刻が区切られるほど、美術史上、エポックメイキングな人物。そのロダンも、弟子のブールデルの才能に早い段階で気付いており、また、ブールデル自身もそれを自覚し、これほどの巨大な存在のロダンの下にいては、自分の可能性が潰されるかもしれない、と若いうちにロダンと袂を分かち、独り立ちする。このデッサンはレリーフ作品を制作する為の下書きとなる。ヘンリー・ムーアは、ブールデルからは4世代程下の世代で、イギリスでは非常に大きな名声を博した彫刻家であり、世界的にも公共空間へのモニュメント彫刻の先駆けとなった、重要な作家である。ところが、このデッサンを見て決して上手いとは言えない。少なくとも日本の美大の入試のデッサンとしてこれが提出されたら合格はできないレベルである。だがムーアにしか描けないデッサンという特徴、強く打ち出された量感がある。ムーアは「直彫り」といって、縮小版であるマケットを事前に作らずに、素材を彫塑し始める方法を若いころに続けており、それとの関連も彼のデッサンには感じられる。さらに世代が下がって、グレコ。グレコは専門的な美術教育は受けていないが、石工の息子で幼い頃から物づくりに親しんでいた。このデッサンは一見すると、何が描かれているのか分からないが、よく見ると犬と男の動きの一瞬を線描で捉えた、動きを重視したものである。続いて日本の3作家、舟越・佐藤は東京芸大の同級生で、大学で初めて出会って意気投合し、生涯親交をもった日本の彫刻界で双璧をなした二人である。柳原は二人の3年先輩になるがやはり著名な彫刻家である(面白い事に3人とも21、2歳で芸大に入学しており、ストレートに入学するのではなく、それぞれの社会経験を経ている)。いずれにせよ、これらを比較すると具体的な作品制作を前提としたものや、そうでは無いものもあり「彫刻家のデッサン」の多様さが分かる。

さて、彫刻と絵画の比較、とはつまり立体と平面と言い換える事もできる。その二つはどちらがより難しいか?そして人類が最初に創り出したのはどちらか?人類の誕生とその歴史には未解明な部分はまだあるが、およそ6~700万年前に類人猿と人類の起源が分かれ、およそ20万年前に新人類の祖先が派生、およそ10万年前に人類は言語を獲得したと言われ、アルタミラやラスコーの洞窟壁画(つまり平面)が描かれるのはおよそ1万5000年前(近年発見された、「吹き墨」で描かれたショーヴェ洞窟壁画は3万2000年前)。では立体はどうか、現在確認されている最も古いものはオーストリアで発見された3万5000年前のホール・フェルス洞窟遺跡の動物の骨や牙を彫った像であり、実は立体(彫刻)の方が人類はより古くから創りはじめたものである。絵画についても彫刻についても今後の調査・研究で新たな発見があるだろうが、彫刻の方が若干古い事には間違いなさそうだ。そして、近年の脳の研究では立体物を平面に置き換えるには、立体を立体として認識するよりもさらなる脳の進化が必要である事が分かった。ところが、美術教育では立体制作よりも平面制作に軸足を置いたものとなり、絵画により親しみを感じる人が多い。

また、切り口からも2つを比較してみよう。彫刻は対象を360度、対象をあらゆる面から描かなければならない、ところが平面は対象の一部、せいぜい180度である。例えばミロのヴィーナスは背中も頭頂部も足の裏も見ることができる。だが、彫刻の弱点はモデルの肌の毛深さや肌の色は表現できない。作家は表現できない事より、量感や別の要素に目を向ける。絵画は現実には不可能な、空を飛ぶ人物や、マグリットのように巨大な岩を宙に浮かせる事もできるが、彫刻は物理法則に従わなければならない。この二つの表現にはこのような違いもある。

ではデッサンに戻ってみよう。デッサンの中で画家が重視するのは、線描・描写・表現性などである。それに対し彫刻家は量感(塊、マッス)、動き(ムーヴマン)、質感を大切にする。一般的に画家は対象(モチーフ)に対して、いかに正確であるかを重視し、彫刻家は自分自身の実感、対象に対して自らがどう感じるかを重視する。

そしてなぜ、作家はデッサンをするのか?手(技術力)、目(観察力)、頭(認識力)、この3つの力がバランスよく発揮できなければ自らの求める表現ができないからだ。だから画家も彫刻家も日々デッサンを行うのである。さらに言えば、もう一つ欠かせない要素として心(感情)が最も重要と言える。作家の心が無ければ、いくら上手な絵画だろうが、彫刻家であろうが、作品を見る人に響く作品とはならない。

 

トップご案内 丸沼芸術の森コレクション | イベント | 芸術家紹介ワイエスレポートグッズ販売ご意見・ご感想リンク
このwebサイトのすべての内容について、一切の転載・改変を禁じます。このサイト内にある画像の著作権・肖像権などすべての権利は、 それぞれの権利所有者に帰属します。本サイトに関するお問合せは、丸沼芸術の森まで